まさに衝撃的だったと言っても過言ではないだろう
あんなこと人生で一回あるかないかだ






両手を広げたやつ





「あ、ジャ−ジ忘れた」
教室で誰に言うともなく呟いた
休み時間、移動教室やら何やらで騒ぐ教室
確か次の時間は理科室だったはず
(最悪!)






「夏なのにジャ−ジなんか着けてるからだよ」
しかも体育の後だったのにさ、と付け加える
「だってジャ−ジないと落ち着かないし」
着々と移動教室の準備を固めていくに一人焦る私
(ああ、もうどうしよう!)
仕方ない
寂しいけどを遅刻に巻き込むわけにもいかない
「美術室まで取ってくる!」
「行ってらっしゃ−い」
私の遅刻のことなど微塵も心配していない様子でヒラヒラと手を振っている
酷いっ」
小声で言うとさっきまで授業していた美術室まで猛ダッシュをした






授業の始まりを知らせる鐘にびくびくしながら美術室でジャ−ジを探した
だけど
置いていた場所にもなければ美術室の何処にも見当たらない



「先生、ここに置いてあったジャ−ジ見ませんでした?」
最後の頼みで先生に聞くとあっけらかんとした口調で先生はこう言った
「最後に出て行った忍足くんが持って言ったよ」
(そ、そんな....)
ガクリとうな垂れる私に先生はまた口を開く
「そういえばさっき美術室から出たばっかりだよ」



その一言を聞くと私は先生にありがとうの一つも言わず美術室を飛び出した
遅刻も嫌だけどジャ−ジがないのは耐えられない!
その一心で真っ直ぐに長い廊下をキョロキョロ見渡す
すると10m程離れたところに忍足くんを発見した






だが、しかし
クラスメイトとはいえ滅多に喋らない忍足くんにこんな離れたところから声を掛けるのは気が引ける
だけど今声掛けなきゃどうするんだ!
自分自身に渇を入れ勇気を出す
「お、忍足くん!」
歩いていた忍足くんの足が止まり私の方を向く
「わ、私のジャ−ジ美術室から持っていったって聞いたんだけど....」
段々と恥ずかしくなり声が小さくなる




何故か暫くの沈黙




もう一度言おうと思ったとき忍足くんが口を開く
「ああ!これ仲松さんのやったんや」
誰のやろな−思っててん、と軽く笑う顔がたまらなく可愛い
(ク−ル顔なのに可愛い笑顔なんだよねえ)
みんなこのギャップにやられるんだろうな、って一人で納得していた
「ごめん、ありがと!」
タッタッタ...と10m程離れている忍足くんとの距離を走って縮める
すると思いもよらぬ出来事が私を襲った






最初は錯覚なんじゃないか、なんて思った
だって目の前にはありえない光景が広がっていたのだから
そのせいで遅刻ぎりぎりの私の足は見事に止まって
普段赤くなることのない私の頬は真っ赤に染め上がっていて
次の瞬間、金きり声






「何考えてんのよ!」
私の声にびっくりしたのか目を丸くし心外だ、とでも言うように私を見た
「何考えてるっておいで−に決まってるやんか」
両手を大きく広げている私を待っている様子
(ちょっとちょっと!)
「何で私が忍足くんにおいで、って言われてその胸に飛びつかなきゃいけないの!」
感情をむき出しにして怒る私に怒鳴らんといてや−なんて呑気なことを抜かす奴
全く、いい加減にしてほしい
「あのねえ!いい加減にしないと本当に遅刻....」
そこまで私が言い掛けると待ってましたというように無情にも鐘が鳴った






「う、うそ!」
鳴っちゃったじゃないの、と半泣きで抗議する私にへらへらした顔で2人遅刻やんな−といった変態さん
忍足くんがモテる理由は優しさとか笑顔だけじゃない
きっとこの軽〜い性格のせいもきっとある!






まだ懲りないのか両手を広げニコニコ顔で私を待っている
無言で近寄りパッ、と忍足くんの手からジャ−ジを取った
いきなり空になった忍足くんの片手はダラリとしたに垂れ下がる
「あ−、何すんねん」
本当に残念そうな顔してそんなことを言われても
「何で私がそんなこと言われなきゃいけないの」
はあ、とため息ながらに言葉を吐き出す
「遅刻だし何でか分かんないけど忍足くんにおいでとか言われてるし全然意味分かんない」
一気に言葉を並べた私に最初は驚いた様子だったけどまたあの笑顔で笑った






「何や、仲松さん普通に男子と喋れるやん」






忍足くんの口から出てきた言葉に驚く私
口をあんぐりと開け驚き顔の私に忍足くんが続ける
「あんまり男子と喋られへんから声掛けられたときびっくりしてもうたけど.....」
一旦言葉を切って、そしてまたあの笑顔
ク−ル顔なのに可愛いあの反則な笑顔で言った
「俺ともこうしてめっちゃ普通に喋っとるしな」





モテる理由が今はっきりと分かった
なんて説明すればいいのか分かんないけど絶対的に分かった
これは、やばい



(私が声掛けたとき驚いてて黙ってたんだ)
そう思うと何だか心がほっこり温かくなった気がした




「仲松さん、次移動どこやったっけ?」
「……理科っ!」
「えええ!まだ怒ってるん?!」
「知らな〜い」





今、今日で一番笑顔だったと思う
何かまた忍足くんの一瞬の沈黙もあったし
そして忍足くんが笑った
私もまた笑った
教室に移動教室で使う教科書やノ−トを忍足くんと2人で取りに行くときに不覚にも思ってしまった
(次両手を広げられたら飛び込んでみてもいいかもな)、なんて








あとがき**

ちょっと実話入ってたり(笑)
ほんの少しだけだけど