見上げれば地元ではなかなか見られない青い空。
白い雲がふわふわ浮き立ちとても気持ち良さそうな色。
少し歩けばエメラルドグリ−ンの海が広がっているという。
きっと沖縄特有の白い砂浜が私を待っているのだろう。
しかし今のにそんな余裕はこれっぽちもない。
周りの美男子共に扱き使われながらは理想の夏休みの過ごし方を思い浮かべているのでした。





beautiful days 〜立海マネの華麗な日常〜




は死に掛けていた。
意気消沈、それが今の彼女の状態には一番合うのではないだろうか。
あまりの労働のキツさにはさっき一度「もう勘弁してください」と弱音を吐いた。
傍でその消え入りそうなほど小さな声で言った弱音を聞いた幸村はキラキラと光る太陽の下、その太陽にも負けず劣らずの笑顔で言い放つ。
勘弁するわけがないじゃないか
「すみません」
仁王の言葉巧みな誘惑にまんまと引っかかり、意図も簡単にOKサインを出してしまった自分を呪う他なかった。
大体自分のガ−ドが甘かったのだ。
普段の教訓から学び、死ぬ気で廊下を走り逃げ回れば良かったのだ。
自分の行動を悔やめば悔やむほど、自分の頭の悪さを思い知らされるのは何とも痛い。
やり切れぬ思いを胸には腹の底から声を出し叫ぶ。



やってらんね−!
「うっせ−な。黙って仕事しろ」
「ですよね」



飲み物を取りに来た跡部に一喝される。
見渡せば周りのメンバ−は何事かと目をシパシパさせている。
跡部に自ら用意した冷えたドリンクを渡す。
慣れない手つきで作ったドリンクはどうしても不安が残る。
「…ねえ、大丈夫?」
「あ?何がだ」
「私が作ったドリンク」
「…別に不味かね−よ。普通だ、普通」
「まじ?よっしゃ!」
味には人一倍厳しいはずである跡部に「普通」の言葉を貰ったは素直に喜ぶ。
他人から聞けばその言葉は褒め言葉であるのかは微妙だが、とりあえず不味くはないのである。
初めてドリンクを作った割りにはかなり上出来ではないだろうか。
ドリンクを飲み干し、跡部はまたコ−トに戻っていく。
普通、そう言いながらもから渡されたドリンクを残らず全て飲み干したのは彼の立派な愛情表現。
の喜ぶ顔がそうとう嬉しかったのか跡部はコ−トに戻るため歩きながらも頬は緩みっぱなしである。
今幸せいっぱいであろう跡部に近づいてきたのは、自称愛の伝道師だという忍足。



「景ちゃん良かったや−ん。ちゃんめっちゃ喜んでるで」
「変な呼び方するんじゃねぇ!」
「頬緩んでるで−」
「消えろ、この眼鏡」
「酷いわあ−、人がせっかく褒めとるのに。普通ってあれ、美味しいってことやろ?」
「…そのまんまの意味だよ」



はというと、跡部の言葉に元気が出たのか一生懸命次の仕事に熱を入れていた。
ぶつくさ色々文句を吐きながらも内心彼女は思っていた。
一番きついのは太陽の下身を焦がして頑張っている彼らであり私じゃない、と。
仕方ないのだ、うっかりとはいえ受け持ってしまった仕事はやるしかない。
は心に決め、マネ−ジャ−の仕事に汗を流した。
そして時計の針が午後5時を指す。
ベンチに静かに座り練習を見ていたダンディなおっちゃんが大きな声で言った。
「練習はそこまで!」




この合宿の責任者である榊は、選手達にお風呂に入り体を冷やさないこと、夕飯は7時からであることを伝えた。
選手達は全員大きな声で「はい!」と返事を返すと、各自コ−トを去っていく。
それぞれ疲れているのだろう、みんな朝よりは元気がなく疲れた様子で歩いていた。
はみんながコ−トから出たのを確認するとまだ残っているマネ−ジャ−業を片付け始めた。
みんなが帰ったのを確認したのは、練習で疲れているだろう彼らに気を使わせたくないという彼女なりの気遣いだった。
「頑張れ私!」
虚しくも自分で自分を盛り上げると、汚れたタオルを一つ一つ手で洗っていく。
今自分が洗っているタオルを明日彼らが使うと思うと自然と丁寧に力を込めて洗うことが出来た。
夕飯は7時から始まる、時間は絶対厳守だと榊は言っていた。
「い、急がなくては!」
はひたすら目の前に広がるタオルを洗っていく。
コ−トの片隅でタオルと格闘する姿が、夕日に優しく照らされ影としてコ−トに伸びる。
が合宿所にいないことに気付いた幸村はすぐさま後を引き返し、先程まで居たコ−トに戻ってきた。
そこには一人残り明日自分達が使うはずであろうタオルを洗うの姿。
幸村はの後ろ姿をしばらく眺めると、静かにその場を去った。
が一人でここに残ったのはきっと、幸村はの気持ちを察して合宿所に戻ったのである。



彼女が合宿所に戻ってきたのは6時過ぎだった。
膨大な量のタオルを座ったまま洗い続けたため彼女の腰は今にも砕けそうだ。
腰が−!腰が−!死んじゃうよ−!
「何処に居てもはうるさいの」
仁王に軽く頭を叩かれるとは今にも泣き出しそうな声で言った。
「マネ−ジャ−の仕事がこんなにも地味にきついだなんて思いもしなかった!」
「分かったから早よ風呂行きんしゃい」
「もう歩けません」
「なら引きずって部屋に連れて行くだけじゃ」




仁王はそれだけ言うとあの日のようにの首根っこを捕まえ廊下を引きずりあるく。
疲れきった体を動かすのは正直辛いので、仁王が引きずってくれるとある意味楽でもある。
しかし床と擦れ合う足が焼けるように熱く、そして痛い
「痛い痛い痛い!痛いよ仁王さん!」
「お前さんが歩けん言うたんじゃろ」
「そうですけど!確かにそう言いましたけどこれはない!」
「それだけ喚く元気があれば大丈夫じゃの」
廊下から時々聞える、痛いや熱いなどの悲鳴を聞いた切原は自らの部屋でただ身を震わせていた。




仁王に引きずられ部屋に到着した。
廊下の床と擦れ合った足は赤く熱を持っている。明らかに軽い火傷だ。
必要以上に大きなお風呂場に動揺を覚えつつも、一歩足を踏み出しお風呂に入れば今日一日の労働をこの馬鹿でかいお風呂で癒すことができた。
思う存分癒されたはお風呂を出て夕飯を食べる場所である食堂に向かおうと歩いていた。
するとと正面から彼女がこの世で最も恐れている幸村が歩いてくるのが見える。
どうしよう、いよいよ死刑宣言だろうか。
嫌な想像ばかりが頭を回り眩暈がしてくる。せっかくの癒しが急速に引き返していく。




しかしの予想とは違い幸村が口にした言葉はあまりに想定外なものだった。
の1mほど先に立ち止まった幸村は微笑を浮かべて言った。
「お疲れ様。慣れない仕事大変だったね。よく頑張った」
幸村にこう言われて嬉しいのは確かなのだが、幸村からの優しい言葉に慣れていないひたすら慌てふためく
「ど、ども。それだけを言いに今…?」
「仁王が歩くのが大変そうだから引きずってやって、と言われてね」
「…勘弁してください」
「冗談に決まっているじゃないか」
冗談になんか聞えません、そんなこと言えないは乾いた笑みを口にした。
とにかく今日2回目の勘弁してくださいは通された。今日は何だかんだいい日なのかもしれない。
そこからは幸村と肩を並べて食堂まで歩いた。
相変わらず緊張はするものの、幸村の言葉が嬉しくて緊張と怖さなどいつもの10分の1ほどだった。





「仁王が引きずってやってと言ったのは本当のことだよ」
「え、ちょ、まじすか!」
「冗談だよ」
「ですよね−」
「本当は首を取って来いと言われたんだ」
「もっとタチ悪いじゃないですか!」




何だかんだで無事食堂に辿り着けただったが、ここから始まるバトルがまさか自分を追い詰めるとは思いもしなかった。
食堂の大きな窓から見える星空は海に反射しキラキラと揺らめいている。
手を休める暇もなく仕事に徹していたは酷くお腹が空いていた。
バイキング形式で取る夕飯に今すぐがっつきたいほどだ。
家で食べるより明らかに美味しそうで栄養価が高そうなご飯にの涎は止まることを知らない。
そしてエメラルドグリ−ンの海が周りの闇で黒く染まるころ、その悪夢は始まろうとしていた。










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