2年振りの再会だった
その温かく優しい目を強く懇願する私
全てを私に向けて欲しかった
温度差
2年振りに見た亮は高校時代と何ら変わりない
その様子に酷く安心するも胸が大きく軋む音が聞えた
レギュラ−に戻るためけじめとして短く切った髪の毛は今もそのまま
口は悪くともその裏で優しさが見え隠れする亮の口調
照れ屋で口下手な亮は誤解されることも多かったけど私はその優しさを誰よりも理解しているつもりだった
「久しぶりだな」
「…あ、うん」
「かなり久しぶりじゃねえ?」
「2年振り、だね」
喉が焼けるほど熱い
私の体に巡る水分は集団で脱走し空気中へと散らばってしまった
絞り出す様にして発した声は震えていなかっただろうか
持っていたバックをぎゅっと強く握る
何かを必死で堪えてその思いを手に乗せるように
強く握ったバックからギシリと鈍い音が小さく聞えた
湧き上がる感情に必死を抑える
不意に出掛けた言葉をゴクリと呑み込んで必死に笑った
私は私のために笑った
「お前が専門学校行くなんて思ってなかった」
頭を照れくさそうに掻き喋る亮
相変わらずなその癖は私を苦しめる
今亮の頭が私のことだけを独占してくれていると嬉しい
でもそれじゃあきっと離れられないから
「…みんな勉強頑張ってる?」
自分自身で苦しい選択を取った
正しいかどうかなんて分からなくて、寧ろ間違っていてほしいとまで強く願う
私のことなど考えないでいい
もう、忘れていいよ
「ジロ−の奴は相変わらず寝てばっかだけどな!」
笑って、笑って
仲間のことを思って笑ってください
その記憶に私は居なくていいから
「お互い20歳なんて早ぇ−な」
「だね」
「忍足酒強いんだぜ」
「…あ−、それっぽい」
忍足のお酒を飲む想像は簡単に出来た
酔いつぶれる岳人や鼻で笑う跡部
テンションが上がっていつも以上にニコニコ笑っているジロ−も困った顔をしている長太郎も涼しい顔をしている若も
樺地は岳人を背負ってトイレにでも連れて行くのだろう
ただ一人、亮のことだけは想像したくなかった
2年間の空白が生み出す恐怖心
壊すことなど簡単なことなのかもしれない
でも綺麗なままで終わりたかった
変わらない風貌
変わらない癖
変わらない口調
変わらない優しさ
でもきっと何かが変わっている
前より一段と優しくなった目や力強い口調
きっと亮の何かを変える出来事が起こったのだ
それを私は知っては、追求してはならない
知ってどうなる訳でもなければ自分自身に負い目を感じるだけなのだ
ならば目を瞑るだけ
何も聞かぬふりして平気な顔をするだけ
前みたく笑って亮を送り出すだけ
簡単なこと、なはずなのに
中学も高校も一緒でありながら何も踏み出せなかった
その一歩が限りなく重くて、怖くて
高校生の冬、みんなとは別々の専門学校へ行くことを決めた
立ち去った者は別の道を歩む他ない
だから私は亮のこと忘れなくちゃいけないんだよ
膨れ上がる想いを風で消し去りたくなった
飛ばして飛ばして、見えなくなるまで
消えて消えて、なくなるまで
空に吸い込まれたかった
青い空間に閉じ込められて未来永劫出られなければいいのに
ふわり柔らかい雲に体ごと包まれて永遠の眠りにつきたい
そうすれば記憶も思い出も優しさも忘れられる気がした
たとえそれが弱虫の逃げ道だとしても
「そういえば近いうち跡部の家でみんな集まるって話してんだよ」
「うん」
「お前来るだろ?」
「行けそうにない、ごめんね」
「忙しいのか?」
「まあ、それなりに」
口から出任せの嘘
もうどうにでもなればいい
亮の言葉がこんなにも痛く染みる
"お前来るだろ?"
当然とばかりに言葉を紡ぎ笑ってみせる亮は私を深く抉って
まだ淡く期待をする自分にいい加減苛立つ
要らぬ願望は捨てろと怒りつつ視線は見事に亮を捕らえて離さない
いつからだろうか、こんなにも亮を求め欲したのは
冷え性の私に渡してくれた懐炉のことなんて忘れているのかな
全て私だけの思い出だったのかもね
奢ってもらったカキ氷が格別美味しく感じたことなど分からないはず
全部私だけの世界だったのかな
ノ−トを忘れると面倒臭そうに、それでも貸してくれる姿が好きだったことなんて知らないよね
何もかも私の記憶でしかないから
思い出は儚く綺麗に消えていくもの
確かにそう分かっているのにもう少し、そう心で唱える私は矛盾だらけ
「宍戸さあ、中学高校楽しかった?」
「ん?ああ楽しかったぜ、テニスだらけだったけどよ」
私の唐突すぎる質問に一度呆けてから亮は答えた
そうか、楽しかったのか
良かった、私だけじゃない
「はどうなんだよ」
「私?…楽しかったよ」
言葉を噛み締めて一言一言
震える声で今一度
「凄く、楽しかったよ」
いつの間にか変わっていた私への呼び名
無意識の内に変えたのか亮は気付く様子もない
「」から「」へ
移りゆく呼び名は締め付けて、強く強く
誰の存在?誰のため?
更に力強くなった口調の裏での優しさ
もっと温かくなったその瞳
変わった呼び名のその重さ
何の存在?何のため?
亮が私をそう呼べば私が簡単に亮の名前を呼べるはずがなく
気付いているのかな?全く分からないのかな?
ねえ亮、呼び名は私も変わっているよ
痛すぎる片思いは未だに覚める気配がなく広がる一方
終止符を望む自分への反逆
バックを握り締めた手に力を込めて
「じゃあ俺そろそろ行くわ」
「うん」
「ごめんな、いきなり引き止めて」
「平気」
「たまには連絡しろよ、じゃあな!」
2年振りに君と出会いました
思い出にしようと頑張っていた私の努力は一瞬で消され、残ったのは後味の悪い片思い
変わらぬ風貌の代わりに隣には、私の知らない人
皮肉にも街で偶然2年振りに再会した君の隣には大切な人が一人居ました
笑顔なんてろくに作れず引きつってばかり
それでも笑えていたでしょうか
手を伸ばすことをいつからか諦め私は下を向く
その目も口調も優しさも全て私に向けてほしかった
本当は気付いていた
無いものねだりは痛いだけ
あとがき**
こういう話は書いていて辛くなる
なら書くなと言いたいだろうがそれはできん(…)
流し台に立った瞬間思いついた
それにしても流し台って場所おかしくない?
インスピレ−ションって怖いな