は言う
この世の9割は汚いものでしかないと
ただあとの1割が綺麗だから人は生きられるのだと
「意味分かんねえよ」
「まあだろうね」
「結局何が言いたい」
「さっきのままだよ」
「あ−ん?」
は時々予期せぬことを言う
例えば、今
数学の授業をさぼり、次の英語の自習時間になるとフラリと教室に戻ってきた
教室に帰ってくるなり俺の席の真ん前の(確か田中とかいう奴)椅子を拝借すると
ドン、という大袈裟な音を立てて俺の前に座った
そして座るなりさっきの言葉を口にした
まるっきり意味の分からない行動と発言に俺は飽き飽きしていた
読みかけの洋書の続きが気になる
こいつが話しかけなけりゃ本を読んでいたことだろう
俺がきつくを睨む
するとがハッと軽く笑う
馬鹿にされているようで単純に腹が立つ
こいつの考えが見えねえ
「んな怒らないでよ」
「うるせえ」
と話していると自分が子供に見えていて嫌だった
人とは違う考え
何か一歩先を見ている目
その何もかもにイラつきを覚える
まだ分かんないのか、そう静かに言ったは笑っていた
「俺の邪魔をしてそんなに楽しいか?」
「邪魔なんてしているつもりないよ」
結構な嫌味にケロリとする
突然の顔から表情が消える
無表情とはこういう顔のことだ
常に一歩先を見つめる目が俺を捕らえる
「何見てんだ、あ−ん?」
「…綺麗な目だ」
の形のいい唇が両端に上げる
ころころと変わる表情が俺の調子を狂わせる
こいつは何を考えている?
をじっくり見てみた
スカ−トやシャツから伸びる白い手足
肩にかかる黒色の髪
一歩先を見つめる目と形のいい唇が一つ
何がこいつを美しくさせる?
ますます意味が分からなくなってきた
「跡部なら分かると思ったんだけどなあ」
笑った
目を細めて人間らしく、笑った
こいつの美しさは機械的なものだと気付く
だから苛立つ
だから、美しい
「よし、もう一回ちゃんと説明しよう」
「つまりね、この世の9割は汚いことで溢れている」
「お金に戦争、殺しに嘘」
「まるで絶望しかない」
そこで一息吐くとは俺に尋ねた
「そんな汚い中で人が生きられるのは何で?」
「お前に言わせりゃあとの1割が綺麗だから、だろ?」
「お、いいね」
ご名答、と言わんばかりにうんうんと唸ったの首が揺れる
「その綺麗なものとは、まあ、感動とか希望とかそんな類」
「人が死ぬ、新たに命がこの世に誕生し希望が生まれる」
「嫌なことがあって温かい言葉を掛けられ感動する」
当然のことでしょ?とは笑う
「というより9割が汚すぎるから残りの1割が異常な程綺麗に見えるんだよ」
「やっと見えた光に期待を掛けすぎて痛すぎる絶望を味わう」
「そして光を求めまた歩く、人間この繰り返し」
これが普通の反応ね、と付け加えた
「でもね」
不意に仲松の声が少しだけ大きくなる
そして、歪む
「もううんざりしちゃった人間はどうなると思う?」
「さあ知らねえな」
そう答えた俺にお前は言ったんだ
「死を選ぶのよ」、と
「弱いな」
「弱いかもね」
そう言って空を見上げた仲松の横顔は人間味に溢れていた
きつく結んだ唇
少し垂れた眉
揺れ動く大きな目
小さく震える長い睫毛
さっきまでの機械的な美しさじゃない
キ−ンコ−ン…
授業の終わりを知らせる鐘が鳴り響く
教室中から椅子を引く独特の音や机を元の位置に戻すガタガタという音が煩い
見上げていた空からパッと目を離すとこちらに視線を合わす
「次理科だからサボる」
苦手なんだよね、と言いながら手を頭の上でヒラヒラと振りながら教室を出て行ってしまった
そして仲松はこの汚い世界から飛び立った
お前は俺にこう言いたかったのか?
私は飛び立つと
お前は身を持って証明したかったのか?
絶望があるから光が見えると
お前は俺に伝えたかったのか?
私はここに確かに存在していたと
だが違う
お前は俺に残していった
絶望と光の両方を
弱いのは寧ろ俺の方かもしれない
あとがき**
何が書きたかったんだ、自分っ…!
夜に突如思いついた作品
妙に暗いし本当に何が書きたかったんだろう