生きていく上で傷つかないことなんて一度もなくて
何度も何度も暗闇を味わう
その度に心が抉られて水分が蒸発したようにカラカラに乾く
それでも必死に生きようとするのはきっと
私が心に水を求めているからだ
Dear be loved
朝目が覚めるといつも泣いている
溢れる涙は止まることをしらず私の枕にシミを付けていく
私が泣きながら起きるのはもう当たり前のことになっていて、当たり前の風景になってしまった
そんな自分がとてつもなく情けない
いつまでそこに座り込んでいる?いつまでそこに佇んでいる気?
立ち上がれ、前に進め、止まることなく歩け
頭で言う言葉に心が拒否する
無理だ、立てない、前になんて進めない
私は結局弱虫で前を見ることなんてできずにいる
現実を真っ向から拒否し耳を塞ぐ
そうすることで自分自身を保ち、カラカラの心をどうにか潤そうとするのだ
あいつの存在を風化させることなんて私にできるはずがない
今でもこんなに苦しいほど胸を締め付けて、離さない
いや、違う
私があいつを離さないんだ
思い出なんていらないから、ただ目の前に居てくれるだけでいいから
両手で強く布団を握る
千切れんばかりの強い力で
あいつの笑顔が一瞬頭を通り抜けた
そして儚く消える
きっと帰ってくる、戻ってくると信じている幼稚な自分がそこにはいて現実を曲げていく
そんなことの繰り返しをいつまでも私は続け、空回りな勘違いで自分を励ますのだ
「佑貴、戻ってこないの……?」
小さく言ったはずの大きな弱音が自分自身の心に溜まる
抜けることのないドロドロとした感情に吐き気が差す
喉が熱くなって鼻がツンとする
そして、また、涙
コンコン…
ゆっくりと部屋のドアを叩く音がした
力強く握り締めていた布団から両手を離す
きっとお母さんだ
次の瞬間ガチャリ、と音がして遠慮がちにドアが開いた
「あら起きてたの」
「うん」
私の目をじっと見たお母さんの目が赤くなる
細い肩が微かに震え私の目をじっと見てから辛そうに小さく言った
「また、泣いていたのね」
「いつものことだよ」
そう、とお母さんは一言呟き汗だらけの私の顔を優しく撫でる
「お風呂入ってから学校行きなさい、まだ時間あるし」
「そうだね」
ゆっくりと上体を起こし布団から足を出すと少し冷たい床に立った
寝ぼけた頭に冷たさが染みて、痛い
お母さんに言われた通りお風呂に入ろうと準備をしていると、いつの間にか私のベットにお母さんが座っていた
目を伏せ目がちにしてお母さんは私に問いかける
「秀ちゃんにはちゃんと言ったの?転校するってこと」
思いもよらなかった質問に準備をしていた手が止まった
秀ちゃん、秀一郎のことだ
今日からお互い高校生になる秀ちゃん
「一応言ったよ、学校行く前に電話してもう一回言う」
「そう」
それだけ聞くとベットから立ち上がりそそくさと部屋から出て行ってしまった
パタン、ドアが閉まる
部屋から出て行く母の体はまた細くなっていた
暫くボ−っとドアを見つめまた準備に取り掛かる
汗のせいで額にくっつく髪が邪魔で邪魔で仕方がない
準備の手を早めお風呂場へと向かった
お風呂を軽く済ませると新しい制服に袖を通す
パリっとしたシャツ、真新しい匂い
全てが嫌で嫌で仕方なかった
こんなの望んでなんかいない、寧ろいらない
佑貴が居ない世界になんて興味がない
(ここまで思う私は異常だろうか?)
きっとこんなこと秀一郎に言ったら確実に怒られるだろう
少しばかり顔を歪めて馬鹿な考えはやめろ、って
ごめんね、秀一郎
一つ溜息を吐いてからお風呂場を出た
キッチンには既に朝ごはんが用意されていて私が食べるのをじっと料理が待っている
生憎だが全然食欲がないのだ
毎日体重は少しづつ少しづつ減る
一体どれだけのプレッシャ−と現実が私に襲い掛かっているのだろうと思うと生きるのさえおっくうに感じる
焼き立てであろうト−ストを少しばかりかじると「もういらない」、とだけ言った
お母さんは黙ってお皿を片付け私を急かす
「時間だわ、出たほうがいいんじゃない?」
新しい学校、新しい環境に私は絶対慣れようとはしないだろう
また目を背けひっそりと生きていく
私はそれがどれだけ愚かで情けなくて卑怯者がすることが知っている
知っているのに辞めることをできない
世界は一人の人間を気にすることもなくいとも簡単に周り、そして振り回す
静かに椅子から立ち上がると鞄を持ち玄関に向かう
ロ−ファ−を履き前よりずっと伸びた髪を手櫛で軽く整え大きく深呼吸
「秀一郎くんに電話するのよ」
ドアノブに手を掛けた瞬間お母さんの思い口が開く
「…分かってるよ、行ってきます」
その場に居たくなくて適当に返事を返すと外へ飛び出した
久しぶりの学校が私を待っている
そのまま青学へ進むはずだった私の未来は簡単に変えられ私は今、新しい学校氷帝へ向かう
そのことが私にとってどれだけ苦痛であるかを秀一郎は知っているだろう
家を出て5メ−トル程歩くとポケットから携帯を取り出した
ピッピッピ……
耳元で秀一郎を呼び出す音が聞える
あとがき**
連載開始!
佑貴という人物が次くらいに分かるかも…?
ついでに言っておくと大石はキ−マンです
とか言いつつこれは忍足夢だけど
この連載のテ−マソングはAqua timzさんの「千の夜を越えて」