いつの間にか私の隣に気配なく立っていた幸村様は軽快に笑い声を上げている
顔が綺麗なことに変わりはないが恐らく腹の中は真っ黒だろう
柳のいきなり確信をついた発言に私は自ら思わぬ方向で素敵発言をしてしまった
時既に遅し
私の周りの一部は爆笑の嵐、半分の連中はご愁傷様との如く顔を無表情にし沈黙を通す
この場は暫く納まりそうにない(一部は顔を赤く染め黙りこくり、氷帝の部長さんに限っては顔をヒクつかせている)
今更自分の失態を取り消せるわけもなく私は悔しさのあまりジャッカルの頭をいつもより多めに叩く
普段は抵抗をし続けるジャッカルも今回ばかりは私のことを哀れに思ったのか大人しい
そのジャッカルの優しさと哀れに満ちた目が私には何だか複雑すぎた
beautiful days 〜立海マネの華麗な日常〜
「空港での様子を見ていると何か可笑しいとは思いましたが…」
眼鏡が邪魔で良く見えないがきっとレンズの奥でのことを呆れて見ていることであろう柳生
紳士と呼ばれる柳生が、心底面倒臭そうに溜息吐いている姿なんて見たかないのがの切実な心境だろう
「まさかパンツ忘れただなんて普通思わね−もんな」
腹を抱えて大笑いしながらを指差す丸井
は呪わんばかりの殺意を込めた目で丸井を睨みつけるもの、その睨みすら今の丸井には爆笑物らしく激しく肩を揺らし大笑いする始末
「いや、私だってパンツ忘れる気なんか全くなかったよ!」
足りない脳みそを最大限に使っては猛反撃に出た
だが反撃だなんて顔だけじゃなく頭の切れるこいつ等には痛くも痒くもないらしく
「そんな気あったらただの変態じゃ」
皆を代表して仁王からあっさりと逆に反撃し返されてしまった
言葉の詰まったは悔しさを顔全体に表し仁王を見上げる
一方仁王は余裕の笑みを浮かべことを視線を泳がすだけ
仁王の考えを読むのは数学の公式を覚えるより難しい
数学が大の苦手であるは、数学の公式と仁王の考えを秤に掛けて溜息を吐いた
極めつけは溜息
戦意喪失したらしいはいつにも増して間抜け面を晒し空を仰ぐ
こいつ等相手に戦っても勝ち目などない
潔く諦めたは事を静かに見守ることに決めた
「おい、てめえ」
間抜け面を恥じらいもなく晒しているだろうに向かってだろうか
前方からかなりの怒りを込めた声が聞える
一度乙女の秘密がばれてしまったのだ
今のに怖いものなどない(あえて言うなら隣に住む幸村様)
「…私?」
面倒臭そうにはゆっくりと声の方向に顔を向ける
頭の中は早くパンツを買いに行きたい気持ちで一杯だ
「てめえ以外に誰が居やがる」
間抜け面を通していたの目がバチっと勢いよく開く
目の前には怒りに震えた跡部景吾!
きっとチャ−ムポイントだろう、綺麗な顔にある黒子が怒りと一緒に震えて何だか面白い
は正直なところ笑いを堪えるのに必死だ
「な、何かあいつ俯いてプルプル震えてんぞ!」
「宍戸落ち着きや、大丈夫やて」
「跡部泣かしちゃったんじゃないの〜?」
「もしかしてさん泣いてたり…」
「鳳は話大きくしすぎなんだよ」
「あんな人がマネ−ジャ−だなんて立海は何考えてるんだ」
「…ウス」
別名ホスト軍団と称される彼らの口からはへの心配と、一部の人間からは批判が聞える
大方の人間はあの意味不明なの震えを泣いていると捕らえたからであろう
しかし実際彼女、つまりは全く泣いてなんかいない
寧ろ愉快な気分が最高潮を達し、その気持ちに反映した笑いを隠すのに必死なだけなのだから
が笑いを必死に堪える理由、跡部景吾の顔表面で踊る黒子が面白いとのこと(私がプルプル震えているのは笑いを堪えているせいよ!)
相変わらず俯きプルプル震えるだけの
踊る黒子が面白すぎて死にそう、という所だろうか
「え−、あ−、何でしょうか」
いい加減顔を上げるべきだ
そう思ったのだろう、は笑いを必死で抑え大きく息を吸う
息を吸う瞬間に頭の中で震える黒子がフリ−ズして思わず咽そうになったのも柳は見逃さず観察しているはずだ
「ちゃん思い切り笑うてるやん」
正しくは笑いを必死で堪えている顔、つまり笑いを抑えきれず少々控えめに笑いが表へひょっこり顔を出している状態
その事に忍足自身も笑いを隠せず一人肩を震わせ笑う
何だかんだでこの2人は波長が合うようだ
忍足の正直気味の悪い笑みの意味が分からない跡部を除く氷帝メンバ−は、忍足に非常に冷たい視線を投げつける
可哀想な忍足はその視線に気付きはしない
限りなく変態である忍足はただ一人笑うだけ
「…侑士、…お前…」
相方である向日の哀れみに満ちた声も今の忍足には到底届きっこない
そして全ての笑いの象徴である跡部はこれまた怒りに震えていた
「何で俺は笑われてんだ…!」
自分では完璧に笑いを抑えているだろうと勘違いしているに、失礼極まりない笑いを跡部に向ける忍足
そして何で俺が惨めな気分になるんだ?
今まで経験したことのない恥を掻いた気分になった跡部は怒りの沸点を超えた
その頃
「何では震えているんだ?」
いまいち状況が読めない真田は隣に居る柳に問う
柳は涼しい顔をして一言
「…きっと面白いんだ」
何だか言葉足らずな一言に真田の疑問は深まるばかりだが追求はやめたらしい
それはきっと真田のスポ−ツマンとして直感が辞めておけと警告したからであろう
「何かが面白いんだな」
見た目は勿論、中身も到底中学生とは思えない威厳持ち
そんな真田だがこれ程可愛い老けた中学生もいないはずだ
「てめぇ何笑ってやがる…」
あまりに整った顔をこれまた綺麗に歪めて跡部はいつにも増して低い声でゆっくりと呟く
「え、だって部長さんの顔で揺れる黒子が面白すぎて」
分かっての通りは馬鹿だ
学校の成績なんて悲惨すぎて見た者の思考を一瞬ショ−トさせる程の威力
悪気もなし、勿論馬鹿正直に必死に隠していた笑いの理由をばらしてしまう始末
「俺様のチャ−ムポイントを馬鹿にするんじゃねえ!」
え、そこ?と思わず聞き返してしまう様な跡部の返答だがこれも仕方ない
跡部は成績優秀だが違う意味で頭の働きが良くない
第三者から見てみれば何が何だかの会話だが2人には通じ合っているようだ
「だって面白いだから仕方ないでしょ!…ぷっ」
少し怒ってみたものの、笑いをあと少し我慢出来なかった
「てめぇはこの合宿に何しに来やがった!…ってお前等も笑ってんじゃねえ!」
ようやくと忍足の笑いの意味が分かった氷帝軍団
跡部の今までのナルシストすぎる発言や普段言えない怒りを込めて大爆笑三昧
よく見てみればあの樺地でさえも小さく笑っているではないか
実はストレス溜まってたのか、樺地?
「それにしても面白いッスよね!先輩パンツ忘れたンスよ?」
ゲラゲラと腹を抱え大笑いを連発する切原
心なしかその無邪気な切原の目には面白さのあまり涙が浮かんでいるように見える
一通り笑い終わった丸井が切原の言葉に頷く
「ここにが居たら更に大爆笑だったぜィ」
丸井は、美人にも関わらず男気溢れるパワフルなの親しい友人、を思い浮かべて短く笑った
「先輩ってば強烈ッスもんね!」
後輩である切原だが、美人な顔立ちとその強烈な性格とのギャップが激しくて有名なのことは既に脳内にインプットされている
本人に自覚は無い様だが明らかに目立つと普段の学校生活を一緒に過ごす自身も細々有名なのは本人すら知らない事実
ジャッカルは切ない目をして呟いた
「…パンツ忘れんなよ」
沖縄の眩しい太陽がジャッカルの頭を激しく照らしていた
そんなに面白かったのだろうか、笑いながら目の両端に涙を溜める幸村が口を開く
「思う存分笑ったことだしそろそろ練習を開始しようか」
しかしは気付いていた
今まで非常に愉快そうに笑っていた幸村様だが背後には言葉では言い表すことの出来ない黒々としたモノの正体に
何だか少しだけ久々に感じる恐怖感
この時の脳内に危険と非難警告を促すサイレンが音量MAXで鳴り渡る
逃げる気は満々だがそんな訳にはいかない
ここは合宿の場、それににとっては異国の地沖縄
右を見れば沖縄の代表的な花であるハイビスカス
左を見れば青々とした海
逃げ場などここにはない、一瞬で理解したであった
「ねえ、」
恋する乙女には到底分からない、もしくは見えるはずがない怖すぎる笑顔で幸村がの名前を呼ぶ
ここ沖縄は確か南国地帯
それなのに何故だろう
「凄く寒く感じる!」
「それはお前さんが幸村に怯えてるからじゃ」
「…やっぱり?」
認めざる負えない事実と仁王の言葉にガクリとうな垂れる
「パンツを忘れたことは確実にが悪いよね?」
「はい、そうです」
コクコク頷くだけのを見てこれまた満足気に頷く幸村
「それは仕方ないことだとして…そのことで今練習時間が大幅にズレたんだ」
「大変ご迷惑をお掛けしまして」
「頭悪いんだから無理して難しい言葉遣わなくたっていいよ」
笑顔でそんなこと言われましても、そんなこと決して口には出せない
「今からすぐに練習を開始するつもり、でもはマネ−ジャ−業の前にパンツを買ってきて」
「…すみません」
「仕方ないから吊るすのは帰ってきてからでいいから」
「まじでその死刑行為決行するんですか!」
「……しないつもりなの?」
あなたには到底敵う気がしません
柔らかい口調とは反対に真っ黒なオ−ラを背負った幸村の前に、負けを認め倒れこむ
「すみません喜んで吊るさせられてもらいます、寧ろ吊るしてください」
の降参宣言に幸村は優しく笑った
「ちゃんってめっちゃMやねんな」
「…何で今この状況で意味不明な見解してんだよ、侑士…」
伊達眼鏡の言葉に呆れながらもちゃんとつっこみを入れてあげる向日
その横ではこめかみに青筋をくっきり浮かべた跡部が言った
「俺様のチャ−ムポイントを馬鹿にするんじゃねえ」
もう誰も気にしていないことを結構ナイ−ブなのか、どうしても引っ張る跡部だった
「一人じゃ無理だろうから付き添いに仁王と忍足付いてほしいんだけどいいかな」
倒れこむから目を離し仁王と忍足を交互に見る幸村
仁王は黙ってOKサインを作る
忍足も面白さに負けたのか快く返事を返す
「かまへんで」
「何でよりによってこの2人…!」
話は進み、と仁王に忍足はタクシ−で榊監督の別荘地を後にした
幸村が忍足を付き添いにした理由は二つ
何度かここに合宿に来ていたらしい氷帝組みは近くであればある程度の土地勘があること
あと一つはが忍足に嫌悪感丸出しだったのでただの嫌がらせのため
どこまでも抜かりがない魔王幸村
そして現在タクシ−の中
「何で3人揃って後ろに乗ることになんの!」
「言いだしっぺは忍足じゃけえ、俺に言わんで忍足に言いんしゃい」
「眼鏡、説明」
「ちゃん酷いわあ、侑くんって呼んで言うたやん」
「誰が呼ぶか!」
「もしかしてちゃん実はSの方なん?!」
「うわ、私こいつ凄い嫌だよ!話が全く噛み合わない!」
「俺は好きやで」
「ギャ−!」
騒がしい忍足とを尻目にマイペ−スな仁王は朝早かったためちょっとした仮眠中
あまりの騒がしさにタクシ−のおっちゃんに捨てられた3人は少し遠い距離を歩く羽目に
「せっかく仮眠しとったのにのう」
「仁王ごめん!」
ただ平謝りのだが実際悪いのは忍足ではないだろうか?
そしてデパ−トでもこの騒ぎが収まることはない
すぐに終わるからそこらで待っていろ、というの指令をこの2人が聞くわけがなく
「はこの熊さんのパンツで良かろ」
「良くない!何それ小学校低学年じゃん!」
「頭はそれくらいのレベルじゃろ」
「おい」
2人は普通にこの場に居るが明らかに間違っている
もっとこう人を気遣って欲しい、切実に願うの願いは届くことを知らず
「もっとセクシ−にいかな!ちゃんこれなんてどうや?」
「むむむむむ、無理!」
「ちゃんなら大丈夫やって、履きこなせるはずや!」
「お前は私に何を求めている?」
忍足の手には紫色をしたスケスケパンツ
の心は悲しさと切なさ一色
今自分にあるだけの最大限の力を持って下着売り場から仁王と忍足を追い出すとは適当にパンツを鷲掴みすると精算所へ
素早く精算を済ませると2人を連れタクシ−を拾い、再び合宿所へ
折角ここ沖縄に来たのだ
みんなそれぞれ難問アリだが顔だけは最強レベル
多くを望まない癒しを求めて合宿所に戻っただがその幻想は綺麗に砕け散る
「マネ−ジャ−ってこんなに大変だったのかアアアアアア!」
今更の事だがやっぱり実際やってみないとその大変さは分からない
甘く見ていただがあまりのハ−ドさに、部活を引退してからは滅多に使うことのなくなった足はボロボロ
すぐに痛くなる腰なんてもう悲鳴を上げている
可愛い鳳くんのテニスをしている格好良い姿を見て一瞬だけ癒されるもの、やはり体の疲れには勝てない
何だか表情まで乏しくなってきた感がジャッカルの頭より切ない
テニスのことになると幸村はいつも以上に鬼へと変わり、幸村以外のメンバ−も真剣な顔つき
マネ−ジャ−業に文句など言える訳がなく、は自分の限界と精神疲労に必死で戦っていた
「きゅ、休憩入ってください−!」
あまりの疲れにもう言葉も噛々だ
太陽の下で爽やかな汗を流す立海と氷帝の両校が休憩のためのところへとドリンクを取りにやってくる
どんどん伸びてくる手に急いで次々とドリンクを渡していく
全員にドリンクを渡し終えたと思い、は今は誰も居ないはずのコ−トへ視線を移す
そこにはさっきカンカンに怒らせてしまった跡部の姿
一人休憩をせずにボ−ルを打つ姿を見て少しだけ感動したもののすぐに溜息が出た
流石にこの暑さで休憩なしじゃ倒れてしまう
そう考えたは少し遠めのこの場からテニスコ−トに立っている跡部へ言う
「部長さん休憩して−!」
「俺は大丈夫だ」
「この暑さで意地張るなよ−!」
「意地なんざ張ってねえ」
大きな声は出さないものの休憩中で人が居ないコ−ト、ましてや声の低い跡部ならその声はよく聞える
この時正直は苛立っていた
勿論跡部本人に、というよりは予想以上のマネ−ジャ−業の大変さと足腰の痛みに対して
そして勝手な怒りは爆発した
ドリンク片手に気が付けば叫んでいる始末
「休憩しろっつってんだろ!」
「なっ…」
「この暑さ!休憩なし!大変!」
いちいち区切る意味は得にないのだろう
とにかくその顔からは確かな苛立ちが目に取って見える
「急いでドリンク取りに来い!」
「…チッ、仕方ねえ」
この時跡部はいきなり来た胸のトキメキに動揺が隠せずにいた
気の強い女は嫌いじゃねえ、俺を気遣っての休憩を促す行動、全てが最高じゃねえか!
都合の良いように捕らえる跡部はある意味最強のポジティブキングではないだろうか
水を差すようで悪いがが休憩を促したのは大方自分の苛立ちを我慢できなかったからだ
勝手にぶつけた自分の怒りが何だか妙な方向へ
からドリンクを受け取った跡部は跡部らしくなく、顔をささやかに染め上げる
「覚悟しておけ!ハァ−ハッハッハ!」
「マジマジもしかして跡部今のでちゃんにきちゃった〜?」
「ジロ−、俺も同じ考えやで!ロマンスやロマンス!」
「合宿にそんなもの必要ないですよ」
「げ、激ダサだな」
「…なんで氷帝ってこんなアホばっかなんだ?」
怒りを跡部にぶちまけたことでこんな凄い事態になっていることをアホの塊であるが気付くはずがなく
ストレスを少なからず発散できたことにすっきりしていた
「あ−、少しすっきりした−!」
「さん大丈夫ですか?何かお手伝いすることありませんか?」
「おお!鳳くんありがとう!でも大丈夫、すっきりしたとこだしさ」
「何かあれば言ってくださいね」
呑気にゴ−ルデンレトリ−バ−と鳳を重ねてはその可愛さと心遣いに癒されるだった
…なんだか一悶着起きそうな予感
の野生の感が少なからず働いていた
あとがき**
久々UP!
気分で第三者目線
何かグダグダだなあ