家に忘れてきたパンツを恋しく思い私は盛大な溜息を吐く
足元に置いた大きく膨れ上がった鞄に視線を移す
何だかこの荷物さえも私を嘲笑っているかの様に見えてきて仕方がない
ここまで来ると私が異常なのだろうと自分自身を哀れむ
どうしても私の視界に入ってくる赤也のニヤついた顔に苛立ちを隠せず頭を一発思い切り殴ると少しすっきりして私は小さく胸の前でガッツポ−ズを作った








beautiful days 〜立海マネの華麗な日常〜








私は改めて目の前に立つ何とも言い難い雰囲気を纏った氷帝メンバ−の顔をじっくりと見る
ぶっちゃけ皆キラキラしすぎてあまりに眩しく私の目は悲しくも半開きだ
部長らしき泣きボクロの人に至っては薔薇が無駄に飛び散っているように見える程
唯一の長所である2.0の視力も彼等ホスト軍団の前では何の役にも立たないらしい






眩しい、眩しすぎる
まるで太陽が目の前に降臨したかの様な眩しさが私を襲う
ホスト軍団を黙ってみていると半目どころか今ではもう目が完全にシャットダウンしてしまっている





「やばい、目開かない」
「馬鹿じゃねえのお前」
「丸井くん、緊急事態なのだよ」
「んなこと知るか」
「どうやったら目開くと思う?」
「無理矢理見開けばいいんじゃねえの?」
「…明らかに面倒臭くて適当に答えただろ」
「分かってんなら聞くな、余計面倒臭い」
ぶっちゃけたな?ぶっちゃけたなお前!






それから丸井は私の目が開かないことをいい事に丸井自らの手で無理矢理私の目を開け始めた(これが凄く痛い)
薄く開いた目から見える神々しい光で眩しいやら、若干目の下付近に食い込む丸井の爪が痛いやらで私は叫ぶ
「痛い痛い!」
がどうやったら目開くかって聞いてきたんだろぃ」
「誰もここまでしてくれ何て一言も言ってませんけど!」
私と丸井が互いにギャ−ギャ−喚いていると何処からともなく柳の冷静で落ち着いた声が聞えた







幸村が凄い笑顔だぞ







声を荒げていた私と丸井の動きがピタリと止まる(勿論私の目は閉じたまま)
よく考えよう
脳みその足りない可哀想な自分自身の頭でよく考えてみる
目の前にはこれから合宿を共にする氷帝テニス部とその顧問であるダンディなおっちゃんが一人
彼等を目の前に凡人の私は思わず目が開かなくなってしまった(あのキラキラオ−ラのせいで)
その事が発端となり今に至る訳で…
幸村様怒るの当然じゃん!






一つの答えに行き着くと私の目は自然に開いた
寧ろ開いた目は恐怖で血走っているはず
柳の言った言葉はいわゆる警告というもの
あの幸村様が笑顔?
神をも簡単に操ってしまうあの幸村様が凄い笑顔?
…怒っているに決まっているではないですか!
やっとこさで目の開いた私は隣に居る丸井と顔を合わせる
丸井はあまりの恐怖に大きく膨らんでいたガムを割ってしまったらしく口の周りはベチョベチョだ
何だかだらしがなく非常に格好悪い(すんげ−汚い)







恐る恐る私と丸井が後ろを振り向くと涼しい顔をして笑っているが後ろに口にも出したくない程恐ろしいものを背負っている幸村様がそこには居た
「本当にすみませんでした」
「ふざけすぎました」
2人揃ってあえなく惨敗
幸村様の隣には空気の読めない真田が何が起こったのかも分からないのだろう、頭の上にクエスチョンマ−クを多く飛ばしている
そしてお怒りの絶頂である幸村様がとうとう口を開いた
「フフ、と丸井は後で吊るすから
吊るすって何ですか!
つっこむ事さえ許されず私と丸井は引き下がる
弱気立場の人間ほど辛いものはない








5分前は幸村様をかなり激怒させてしまい大変だった
とりあえず一段落した後前方に居る氷帝を見ると明らかに変人を見る目で私達を見る者、呆れてしまったのか溜息を吐く者、
何がそんなに面白いのか知らないが声を出し笑う者など様々だった
そして現在、私は氷帝の長髪眼鏡に部屋を案内されている
この長髪眼鏡は私と丸井を見て笑った方の者
今も何が面白いのかずっとニコニコ笑っていて何が何だかまるで分からない
私が言うのも何だがこいつにもう少しだけ前髪切りませんかと物凄く言いたい
どうしよう、凄く言いたい!
そんな自分の欲求を必死に抑え私と長髪眼鏡はこの馬鹿でかい別荘の長く続く廊下を2人で歩く
折角の綺麗な顔が前髪に隠れて非常に勿体無いと感じる私が凡人なだけなのだろうか






「自分ら本間おもろいなあ」
「面白くしているつもりなんて微塵もありませんけどね」
「部長にペコペコ頭下げてるとこ一番笑えたわあ」
「あはは、こっちはかなり必死でしたけどね
「よっぽど部長さん怖いんやろな」
「怖いなんてレベルとっくの昔に超してらっしゃいますよ、あの方は」






つい先程まで目が開かない程キラキラしていたのだが人間には慣れというものが体に機能しているため目の方は全く心配ない
長髪眼鏡はレディ−である私の荷物を率先して持ってくれた
「でも部長さんと仲良さげやったやん」
「あれの何処が仲つむまじく見えるのかが私には全く理解できません」
長い廊下をひたすら真っ直ぐ歩いて
凡人である私の隣には長髪長身の丸眼鏡
この妙な組み合わせは一体何なのだろう







「それにしても別名ホスト軍団なんて凄いですよね」
「俺達そんな風に言われてるん?」
「何か有名らしいですよ」
「ホストなんて女の子泣かすような職業やんか」
「そうですね」
「でも女の子泣かすの結構得意やねん」
うわ、お前もキャラ随分と濃いな
「姫さんも呼んだるからちゃんと来てくれな俺泣くで?」
「いやいや、そこ等で泣いとけよ」
「姫さん酷いわあ」
「気持ち悪いから姫さん姫さん言うな」







普通に目が開く理由を今ここで訂正しよう
決して優れた体の機能のせいではなかった
今言わせてもらえばただ単にこの眼鏡のキャラが濃く気持ち悪いので私の脳が目を瞑る価値もないと判断したためだ
いや、寧ろそうであってほしい






この長い廊下を眼鏡と2人で何故か10分以上も歩いた
その間私は眼鏡のキャラの濃さを身を持って実感しなるべく関わらないことに決めた
そうでなければ私は2泊3日の合宿で干からびて死んでしまう
幸村様のお得意技、恐怖の支配で魂の半分を吸い取られこいつら美形軍団のキラキラオ−ラに負けてしまえば私が生きて帰ることは難しい
そうなってしまえば私の大好きなポテチも食べられなくなり大好きな泡風呂にも入れなくなる
負けない、絶対に負けない!






「絶対に負けないからな!」
「何がやねん!」
「うっせ−!とにかく負けないから!」
「だから何がやねん!」
「私にはポテチと泡風呂が掛かってるのよ!」






私のいきなりの発狂に眼鏡はたじろぐ
しばらく言い合っていると長髪眼鏡の足が止まった
いきなり止まった眼鏡の足を暫く見ていても再び歩き出す様子はこれっぽちもない
不思議に思い視線を上げていく
そして眼鏡と私の目が不本意ながらもバッチリと合う
5秒程見つめあう、いや私が一方的に睨んでいると眼鏡がニッコリと笑った
その優しい笑顔に少しだけクラッと来たのはやはり私が凡人のせいだ(と思いたい)






ちゃんが寝起きする部屋ここやで」
私は眼鏡の言葉に一度頭を傾げてみせる
そして長身である眼鏡の後ろにはこれまた馬鹿でかい図体の真っ白のドア
「姫さんのために俺がドア開けたるわ」
眼鏡は私に向かって大人っぽく笑いかけると金色をした豪勢なドアノブに手を掛け、そして回す
大きなドアの先には白をベ−スとしたとても私一人で寝起きするには勿体無い程大きく広い部屋
見ただけでも分かる高級そうなベットは凄く大きい
部屋には何故かベランダまで付いている
そこからは沖縄独特のエメラルドグリ−ンの海と青く広がる空が見える
私は思わず部屋に入るのを戸惑い、眼鏡が私のために開けてくれたドアの前で立ち尽くしていた







「入らへんの?」
「いや、ちょっと恐縮して」
「監督からのご好意や、受け取っとき」
「でも私一人がこんなに大きな部屋を使っていいのかな」
「見た通りダンディな人やねん、ええやんか」
「…じゃあご好意に甘えて」
「それでええねん」







眼鏡は私の言葉と反応にクスクスと笑いを零す
その仕草が何だか大人みたいで私には凄くドキドキ物で
私は恐縮しながらも部屋に恐る恐る足を踏み入れる
上品な部屋が何だか私には凄く不釣合いな気がしてダンディなおっちゃんに思わず頭を下げたくなった






眼鏡は持っていた私の荷物をベットの横に下ろすと私に言う
「そろそろ時間やし皆のこと行こか」
その言葉に私は黙って頷くと次は自分でドアノブを回し外に出た
後から眼鏡が続いて歩いてきた廊下を再び巻き返し集合場所であるフロアへと急ぐ
この部屋に歩いて付くまで10分以上掛かったことを考えるとフロアへ付くまでにはその倍なはず
急に幸村様の怖い笑顔が私の頭に思い浮かび走る私の足は速度を増した






「みんな集まった様だな」
私に豪華な部屋を提供してくれたおっちゃんが氷帝と立海をそれぞれ見渡し言う
するとおっちゃんは氷帝の部長らしき泣きボクロを見て頷く
「顔合わせを行う、俺は部長の跡部景吾だ」
嫌味な俺様口調もこの泣きボクロに掛かれば何てことない
私の目は普通に開くものの、やっぱりこの跡部景吾の周りには無駄に薔薇が飛び散っている気がする
「おい、それぞれ簡単な自己紹介をしろ」
跡部景吾はパチンと一度指を鳴らす
ぶっちゃけその仕草には引いた





「忍足侑士、侑くんって呼んでな」
「呼ぶかボケ」
「向日岳人!よろしくな!」
「眼鏡もこのくらい髪切ればいいのに…」
「芥川慈朗〜、よろしくね〜」
「あ、どうも〜」
「宍戸亮、よろしく」
「男前はっけ〜ん!あ、おい、引くな引くな」
「鳳長太郎です、仲良くしてください」
「でかいゴ−ルデンレトリ−バ−みたい!」
「日吉若、宜しくお願いします」
ツンデレだろ、お前ツンデレだろ!
「…ウス」
「…オス」







まさに立派なコミニケ−ション
宍戸くんの目が完璧に引いていようが関係なし
私はきっと任務をやり遂げたはず





先輩って自覚ないっスけど自分も十分可笑しいっスよね」
「それには触れるな、ってジャッカルが」
「おい俺かよ!」
「仲松は一体何をしているんだ?」
「フフ、真田は空気を読む勉強をしようね
は頭が弱いけえ、馬鹿じゃからのう」
「仁王君、全く君という人は」
「しかし仁王の言うことは間違いではない」





そんなことを言われているなんて私が知るわけもなく氷帝の自己紹介は終わった
清々しい達成感に満ち溢れていた私がパンツを忘れていることなど覚えているはずもなく
立海陣が簡単に自己紹介を終わらすと幸村様が私に笑い掛ける
とうとう死刑日がやってきたと一瞬思ったのだが場の雰囲気からして自己紹介をしろということなのだろう
もし今すぐ自己紹介を始めなければ「を消すからね」という意味の笑顔に間違いない!
私は咳払いを一つばかりすると自己紹介を始めた







です、至らないところもあると思いますが宜しくお願いします」
無難な挨拶でその場を締める
…何だか氷帝の一部の人から受ける視線が痛い
おかっぱ頭の向日くんが手を上げる
「なあなあ、いつからマネ−ジャ−してんの?」
その質問に私は言葉を詰まらせた
合宿という大事なものに来ちゃった私が今日からマネ−ジャ−です、なんて絶対に言えない!
駄目だ、もっと非難の目を浴びてしまう
ここはどうにか誤魔化さなければ!





「あ、マネ−ジャ−はですねえ…」
向日くんの大きな目が私を見つめる
大人しく私の答えを待つその純粋な瞳は子犬を連想させるのには十分
(か、可愛い!)
咄嗟にそう思った私は鼻から勢いよく出ようとする鼻血を必死で堪えた
さすがホスト軍団、向日くんだろうと侮れない





「マネ−ジャ−は…」
必死に言い訳を作ろうとする私の言葉を遮ったお方が居た
は今日初めてマネ−ジャ−業をするんだ」
一同沈黙
「ゆゆゆゆゆ、幸村様っ…!」
「嘘はいけないよ、
「す、すみません」
しかし幸村様見てください
氷帝テニス部が私を見るこの疑わしい目
あのダンディなおっちゃんでさえも若干目泳いでるよ
飄々としているのは我が立海テニス部だけ(真田は空気が読めないだけかもしれない)






「…肝心のマネ−ジャ−業は大丈夫なんですか?」
怪訝そうな目で私と幸村様を交互に見るキノコ頭のツンデレ少年日吉くん
すると今まで黙って事を見ていた仁王がニヤリと笑う
「心配には及ばん、は幸村に連れられて3年間ずっとテニス部を見てきたけえ」
「私がマネ−ジャ−業の説明も沢山させていただきました」
「お−お−、柳生は怖いのう」
仁王は大袈裟に肩を竦めて見せる
私は静かに頭を捻らせていた
たしかに私は仁王の言う通り幸村様に連れられて朝練だけと言っても3年間見てきた
その間にドリンクの作り方やテニスの大体のル−ル、とにかくある程度のことは理解したつもり
そして柳生にマネ−ジャ−業の説明をしつこく受けてきた
「フフ、全てはこの日のためにね」







…今の幸村様の発言を聞くと
「つまり3年前から私のマネ−ジャ−業は決まっていたと?」
「当たり前じゃ、全て綿密に計画されたことじゃけえ」
ちょっとあんた普通の顔でとんでもないこと口走ってるよ
「俺と仁王と幸村の3人で計画を立てさせてもらった」
やっぱりこの3人は私の最大の敵だ(あんた達怖すぎる!)
「う、嘘…」
「言っとくけど気付いてねえ−のはお前だけだぜぃ」
「は?」
丸井の言葉に私は疑問符と飛ばす
もこの計画最初から知ってて色々手伝ってたしよ」
「そういうことなのです」
柳生が同情のつもりなのか私の肩に手を乗せる







一人状況に付いていけない真田が私に口を利く
「俺にはさっぱり意味が分からんのだが」
「私にもさっぱりだよ!」
「まあ、つまり」
丸井が膨らませたガムをパチンを割る
そして意地悪く笑ってみせて
もグル、全ては仕組まれたことだったんだよ」
私の怒りの矛先、それは
…ジャッカルゥゥゥゥ−!
「って俺かよ!」








この合宿行く先不安です
我が立海メンバ−とホスト軍団氷帝
果たして私は生きて帰れるのだろうか
は何か家に忘れていないか?」
「あ、パンツ!」
柳の思わぬ一言に乙女の秘密を思い切りばらしてしまったのでした
(宍戸くんと日吉くん、それに向日くんの3人は顔が真っ赤に染め上がる始末)










あとがき**

書くのが何だか難しい
さあさあ本格的に合宿が始まるぞ



宜しければ投票を!