時々ふと思い出す人がいる
今、元気だろうか?
高校2年の冬、いきなり言われた言葉
「私イギリスに留学しようと思うの」
あまりに淡々と言うもんだから冗談だと思った
いつもの帰り道いつものように話すお前
思わず足が止まった
「変な冗談言うんじゃねえよ」
そのあと馬鹿じゃねえの、と付け加える
きっと付け加えた言葉は冗談であってほしいという俺の願いに違いない
俺の言葉を聞くとお前は笑った
いつもの、あの、笑顔で
そして言ったんだ
「もう、決めたの」
決めたの、
その言葉だけがずっと俺の頭にフリ−ズして流れてくる
意味が分かんねえ
冬だからお互い寒いくせにこんなときだけ手も繋がない
こんな、ときだけ
これがお前なりの決心なんだと勝手に悟った
だから何も言えなくなった
否定の言葉も肯定の言葉さえ
行くな、そう言ってしまいたかった
だけどお前のそんな顔を前にして言えるわけがなかった
視線を少しだけ下に下げてお前に似合わない寂しそうな顔
何年経っても頭から離れねえ
しつこく焼きついて取ることさえ許されない
「景吾、別れよっか」
一気に吐き出したような言葉
涙を堪えたような目
言えるはずがなかった
お前の必死な顔がどんなに愛しかったか
どれほど抱きしめたかったか
「何年向こうに居るつもりなんだ?」
「分かんない、3年はいるんじゃない?」
俺の顔を見ようとさえしない
そんなに辛いなら自分から別れの言葉なんて言うんじゃねえよ
泣きそうな顔するくらいだったら留学なんてやめろよ
自分自身の中で幾つ言葉を並べたか分からない
ただ、心でお前にぶつけていた
分かれよって
別れるって意味分かってんのかって
結局は俺からお前に言ったんだ
「別れようぜ」
「お前はお前の道を歩け」
「きっと、大丈夫だ」
これほど言葉という存在を憎んだことはない
年を重ねるにつれ増える知識、巧みな嘘
心に反して言葉を発するいうことがどれだけ痛いか身を持って知った
苦しくて歯がゆくて物凄く苛立つ
俺の言葉を聞いてお前はいつものように笑っていた
さっきまでの泣きそうな顔は冬空に消えてなくなっている
迷いも何もない笑顔
今までで一番綺麗だったと思う
きっと別れて嬉しいとかそんなんじゃねえ
単純な理由なんかじゃない、そんな笑顔で
その笑顔の理由なんて知らねえ
知りたくもねえ
きっと知った途端俺はきっとお前に言うんだ
行くな、とだけ
「景吾ごめんね、ありがとう、ごめんね」
繰り返す言葉の重さ
もう立派に成長したかに見えるようで子供すぎる俺ら
「…風邪、引くんじゃねえぞ」
俺なりの優しさ、届いたか?
「……ありがとう、本当にありがとう…」
そう言うとマフラ−をなびかせて去っていった
追いかけたくなる衝動を抑え柄にもなく泣きそうになった
いつかお前が帰ってきたらまた出会って問いただすんだよ
あの時の笑顔の理由を教えろ、って
今も胸につっかえる追いかけたくなる衝動をお前にぶつけるんだよ
ずっとこうしたかったんだよ、って
あれから8年後、25歳
俗に大人と言われる年に成長した
まゆがイギリスに行ってからは一度も会ってない
イギリスで必死に勉強しそのまま就職が決まったらしい
忍足はたまに連絡を取っているらしいが俺は番号さえ聞こうとしない
聞けるはずがないのだ
もうすぐ結婚する身、そして今年が帰ってくる
今更声を聞いてどうするのだ
心が揺れるにきまっている
久しぶりの休日、部屋で昔を思い出しボ−っとしていた
ブ−ブ−ブ−…
テ−ブルの上で静かに電話を知らせる携帯
着信相手は忍足
「…何だ」
「いきなりそれはないやろ−」
学生時代となんら変わりない忍足の声が今は耳に障る
「跡部、帰ってきてるで」
「今俺跡部のマンションの前に居るんやけど、…も一緒に」
「ちょっとに代わるな」
思考回路が切断されたかと思った
一瞬頭が真っ白になって昔に戻るような感覚が俺を襲う
の笑顔でまた、元に戻る
「もしもし、景吾?」
前となんら変わりない声、でもきっと風貌は前よりもずっと大人っぽくなっているのであろう
「…か、久しぶりだな」
本当久しぶり、そう言い軽快にあははと笑う声が懐かしくて
ずっと聞きたかった声だと改めて実感させられる
「聞いたよ、結婚するんだって?」
「ああ」
「おめでとう」
あの日を思い出させるような淡々とした言い方
お前は軽快な笑い声と笑顔の下に何を隠す?
「ちょっと外見てよ」
それだけ言うと電話を切ってしまった
椅子から立ち上がりマンションの無駄にでかい窓を開き下に視線を落とす
黒いス−ツを着た大人びたがそこには立っていて少し離れた場所に忍足
またあの笑顔で俺に大きく手を振ると、手に持っていた一輪のガ−ベラを足元に置き忍足と共に去っていった
伸びた髪に見慣れない格好
全てが新鮮に目に映った
でも、あの頃と何一つ変わらない笑顔と声だけが俺を悲しくも虚しくさせる
またも俺は追いかけたい衝動を抑えた
あとがき**
何かまとまりのない文章になっちゃった気が…
詳しい話は日記を読んでもらえると分かると思います